―本記事は情報拡散を目的に作成しています。ご紹介している文書は、各情報サイトおよび各企業様のホームページ等から引用させていただいています―

緊張感を増すウクライナ情勢を背景に原油価格が高騰している。WTI原油先物は年初75ドル台で始まったが、今週初には130ドル台に達する急騰となっている。2年前のコロナ危機の時に一時、マイナス40ドル台まで下落したことは、恐らく多くの人の記憶にはもう残っていないだろう。今思えば、その時もプーチン大統領率いるロシアが油価下落にかかわらず、減産に否定的な態度を示したことが油価のマイナス圏への急落に対する1つの伏線であった。原油高は、日本の貿易収支と交易条件の悪化を通じて円安要因となりやすい。一方、米ドルやユーロなど他の通貨価値にも決してプラスではない。だが、米連邦準備理事会(FRB)の引き締め観測が根強い中、差し当たって為替相場では米ドル高要因として意識されており、リスクオフ的な米ドル高が地政学リスクの最前線にあるユーロなど欧州通貨に対して、特に強く表面化してもいる。
当面、3極通貨の関係は「米ドル>円>ユーロ」と見るのが妥当だろうか。2─3カ月単位ではドル/円は年初につけた116円台の高値を更新し、2016年にトランプ大統領が勝利した米大統領選の直後に記録した118円台の高値を試す可能性が高いとにらんでいる。
その間、ユーロ/ドルが2年前の1.06台の安値を下限に低空飛行を続けるとしたならば、ユーロ/円は125円前後で上値の重い商状が続くことになるだろう。だが、もしも地政学リスクに加え、FRBなどの引き締めを背景に米株などリスク資産の調整が一段と進行することになった場合、昨年後半に市場で蓄積した米ドル買いポジションが損益確定から売り戻され、米ドル高に歯止めをかけ、場合によっては中期的な米ドル反落局面をもたらす可能性もある。半年ほどの時間軸ではこのリスクシナリオを警戒しておく必要があると感じている。対円では米ドル高のめどは上記の118円台、対ユーロでは1.06台までと見ている。
<欧州からの資本逃避>
さて、2008年の世界金融危機(リーマン危機)の後、2010年代の世界経済の安定成長とゴルディロックスとも呼ばれる穏やかな市場環境が実現した1つの背景に、米国におけるエネルギー革命(シェール革命)があったことは間違いない。2014年に油価が下落した時には一時的にシェール業者の経営問題からクレジット市場が混乱。米株に調整圧力を加える場面もあったが、その後はFRBなど各国中銀が緩和的な金融政策姿勢を採ることを可能にし、世界的な金融経済の安定に貢献してきた。その間、油価はWTIで70ドル台を上限とする取引が続いてきたが、今年の急騰でその上限を突破したことが明らかになった。原油相場はポスト・シェール革命時代が終わり、その前の取引レンジに回帰した格好だ。
WTIは2008年の世界金融危機の発生直前には147ドル台の高値をつけ、それによる実質所得と購買力の減退が進む中、FRBの金融引き締めもあって世界経済は米国を先頭に減速局面入り。金融市場はリーマン危機を伴う厳しい信用収縮局面に突入した。今回は米株がFRBの引き締め観測の高まりもあって年初から調整局面入りしており、そこにウクライナに絡んだ地政学問題の勃発で、従来は米株よりも底堅かった欧州株がここにきて急落している。例えば、ドイツDAXは2020年秋の水準にまで値を崩してきている。欧州金利も今月に入って急低下し、金利政策の方向性を織り込む独2年金利はマイナス0.7%前後まで低下した。2月上旬の欧州中銀(ECB)理事会でのタカ派サプライズで年内のマイナス金利政策解除を織り込んだ際はマイナス0.2%台まで上昇したが、その間に織り込んだ引き締め観測はほぼ、はき出し終わった格好だ。
今回、注目されるのはこうした中でユーロ/ドルが、昨年安値を割り込む下落となったことだ。欧州金利低下に沿ったユーロ安にも見えるが、独10年金利などはまだ昨年終盤より高い水準で推移しており、米国との長期金利差もさほど拡大してはいない。この中で昨年安値を割り込むユーロ安となっているのは、1)2年など中期金利に象徴される、FRBとECBの金融政策の方向性の見方にギャップが広がっていること、2)地政学リスクの余波でベーシス拡大に象徴されるように米ドルの調達コストが上がっていること、3)ロシアに対する制裁の影響でイタリアなど欧州の金融機関の経営不安が台頭しつつあること、4)特に欧州で深刻な天然ガスなどエネルギー資源高の影響でユーロ圏の貿易収支が劇的な悪化を示していること──が理由として挙げられる。
こうした中、欧州株ファンドからの資本流出が進むなど、欧州からの資本逃避が市場では懸念される状況となっている。シティグループが独自に国内外の需給を指数化しているフロー・インデックスを見ても、2月後半からヘッジファンドなど短期筋、リアルマネー(長期投資家)ともユーロ買いからユーロ売りに転換したことを示唆している。ただ、これは欧州に先行していた米株安や米金利上昇に伴う債券価格の下落を背景に、年金など世界の長期投資家がリバランスと呼ばれる、アセット・アロケーションを一定に保つための投資調整を行っていることを反映している側面もあると思われる。パニック的なユーロ売りとは一線を画しているのではないかと筆者はみている。
<マネー急増と資源インフレ>
ドル/円に関しては、上述した日米金融政策ギャップの拡大、それに伴って生じる長期投資家のリバランスによる円売り(潜在的には対米ドルのみならず対ユーロでも)の可能性を考慮すると、当面はドル高・円安リスクを警戒するのが妥当だと思われる。ただ、我々のフロー・インデックスは昨年後半から長期投資家による累積的な米ドル買いが根雪にように記録的な水準にまで積み上がってきていることを示唆している。米国の証券投資統計を見る限り、この間、海外から米国への対内証券投資は低迷しており、我々のフロー・インデックスが示唆する長期投資家による累積的な米ドル買いは、最高値更新を続けてきた米株の潜在的な下落リスクを部分的にプロキシー・ヘッジする目的で行われてきたのではないかと察している。
米株の値崩れが明確になる中、潜在的に昨年後半に積み上がった米ドル・ロングの持高解消はいつ始まってもおかしくない状況に思える。今回の地政学リスクの高まりに伴うユーロ売りで、その瞬間が先送りされているようにも見える。2年前のコロナ危機を経て、世界各国で拡張財政と金融緩和を背景とするマネー膨張が続いていた。例えば、米国のM2はこの間、4割以上の急増となり、ユーロ圏のM3、日本のM2もそれぞれ2割、1割ほどの増加となってきた。こうしたマネーの膨張が米株高に象徴されるリスク資産の上昇につながってきた。
同時にマネーの膨張は家計や企業の支払い能力を高めることで、この1年間、供給サイドから高まるインフレ圧力(コストプッシュ型インフレ)を最終消費者へ転化することを可能にしてきた。このようなインフレ促進的な金融経済環境が、今度は原油高など供給サイドでのインフレ圧力を高めることを可能にする温床にもなっている。このインフレ高進がFRBなどの金融引き締めを通じて、同じくマネー膨張で上昇した米株などリスク資産の調整を促す局面に入ってきている。
これは1970年代の2度の石油危機と高インフレの時代にも働いたメカニズムだ。それは1971年の金ドル交換停止(ニクソン・ショック)で実物貨幣から、潜在的には無限のレバレッジ拡大が可能な信用貨幣の時代へ明示的に移行したこと、それに伴う人々のインフレ期待がぜい弱化したこととも無縁ではなかった。通貨史に残るその時の激変と今回のインフレ高進を並列で比べるつもりは全くないが、過去2年間の瞬間風速的なマネー増加率が70年代のピーク時をはるかに上回っていることも事実である。
<覚悟が問われる各国中銀>
それが1)消費者物価に象徴される物価インフレ、2)原油など資源インフレ、3)住宅や株価など資産インフレ──をあおる要因になっていることを思えば、地政学リスクで一段と困難を増しているものの、FRBを初めとした各国中央銀行の3つのインフレを総合的にコントロールする意思と能力が強く問われる局面を迎えているのだと思う。その観点では先週の米議会証言でパウエルFRB議長が来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の利上げにとどめると語りながら、さりげなくその後の引き締め加速を示唆したことは興味深い発言だった。同日の0・5%への利上げを発表したカナダ中銀の声明文も、地政学リスクとそれに伴う原油高を景気よりもインフレへの悪影響に力点を置いて言及した。また、9日の講演で豪準備銀行(RBA)のロウ総裁が従来からの路線変更を明確にし、年内利上げの可能性があると語った。
こうした流れから判断すると、市場では10日のECB理事会でのハト派転向への期待が高まっているが、最近の市場の織り込みを正当化するほどのハト派転向の可能性は低いように思われる。むしろ、ドイツ債券市場で期待インフレ率(10年)が過去最高水準へ急上昇していることを思えば、原油高による足元のインフレ高進が長期的なインフレ期待に影響することを阻む必要性をECBは感じ始めているのではないかと思われる。地政学リスクよるユーロ安に早晩、歯止めるかける要因になってくると思われる。ユーロ圏、日本を圧倒して急増してきた米国のマネー膨張を考えると、長期的には米ドル安が進行していくというのが自然な流れのように思われる。ドル/円に関しては、上記の通り、昨年後半来、蓄積してきたドル買いポジションの持ち高調整が発生するか否かが、円安から円高への転換の鍵を握ると見ている。
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