原油がインフレ基調に大きな力、米国株の重苦しい展開続く

―本記事は情報拡散を目的に作成しています。ご紹介している文書は、各情報サイトおよび各企業様のホームページ等から引用させていただいています―


米連邦準備理事会(FRB)の第一の命題は「高インフレの抑制」であり、強い引き締め姿勢を貫徹する可能性が高いようだ。パウエルFRB議長の強い示唆もあり、市場は既に6月、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での「0.5%利上げ」を織り込んでいる。現在の焦点は、9月以降の引き締めピッチが緩和されるのか、あるいは「0.5%利上げ」が継続されるのかに移っている。

これに関しては、アトランタ地区連銀のボスティック総裁が「年末のインフレ率は3%台後半になる公算が大きく、9月の一時利上げ停止が理にかなう可能性がある」と述べたことから、一時、米長期金利が低下する局面があった。米10年国債利回りは5月9日ピーク3.201%から同26日には2.702%まで低下し、フェデラルファンド・レート(短期の政策金利)先物も、「9月0.5%利上げ」を読む確率が、一時ピークの6割超から3割台にまで低下する日があった。


<米利上げ継続観測が再浮上>


しかし、ブレイナードFRB副議長は「9月に利上げを休止する可能性は、現時点で非常に低いと思われる」との見解を示した。加えて「月間のインフレ指標で減速が確認されない場合、同じペースで政策を実施する会合が、もう1回あるのは適切かもしれない」と踏み込んだ発言を行った。つまり、「9月も0.5%利上げ」の可能性を示唆したことになる。


また、ウォーラー理事も「数回の会合で、さらに0.5%の利上げを支持する。具体的にはインフレが当局の目標である2%に近づくまで鎮静化しない限り、0.5%の利上げは選択肢から除外しない」と述べている。他にも、クリーブランド地区連銀のメスター総裁が同様な発言を行っている。


こうした発言を総合すると、ボスティック総裁の見解は例外的で、FRBは「中立金利」(3月FOMCでは中間値で2.4%)まで迅速に利上げを続ける可能性が高いと思われる。9月以降の利上げ幅に関しては「実際のインフレ統計次第」というのが妥当な解釈だろう。


<米以外でも利上げ加速の流れ>


FRBのみならず、カナダ中銀も6月1日に「0.5%利上げ」を実施した。マックレム総裁は「インフレ抑制に必要ならば、さらに強力な措置を採る可能性がある」と警告を発している。同中銀は、既にバランスシート圧縮(QT)も実施しているが、高物価の抑制のためには連続的な大幅利上げも辞せずとの見解と思われる。


また、メキシコも既に昨年6月から8回連続利上げを実施しているが、昨年12月以降は0.5%の利上げを続けており、この5月も0.5%幅だった。米・カナダ・メキシコ間で自由貿易協定を結んでおり、「ヒト・モノ・カネ」が自由に往来することもあって、いずれも高インフレに悩まされている。


この3カ国の4月消費者物価指数(CPI)の前年比は、米8.3%、カナダ6.8%、メキシコ7.7%で、歴史的な高水準にある。「0.5%利上げ」は特殊ではなく、北米のスタンダードになりつつあるようだ。


<原油増産が難しい構図>

各国中銀が引き締め姿勢を強めているのは、言うまでもなく高インフレが継続しているためだ。したがって、コモディティの中でも特に象徴的な原油価格の動向が、金融政策に大きな影響を及ぼすことになる。「OPEC(石油輸出国機構)プラス」は、毎月の増産目標(日量・以下同)を従来の43.2万バレルから7月、8月は64.8万バレルに拡大すると突然発表した。従来方針を維持するとの報道が多かっただけに、市場では意外感が強まった。

WTI原油先物価格は、5月31日に1バレル=119.9ドルと120ドルを目前としていたが急反落に転じ、6月2日には一時111.2ドルの安値を記録する局面もあった。しかし、この64.8万バレルの増産が、どの程度原油需給に影響するのかに関しては懐疑的な見方が多い。


第1に、従来の43.2万バレルの増産目標でさえ順守されていないことだ。OPECの生産量推移を見ると、昨年12月の2809万バレルに対して、今年5月は2885万バレルと若干増にとどまっており、毎月43.2万バレル増の目標に対しても届かないケースが多い。


特に、ウクライナ戦争で欧米からロシアが制裁を強化されるようになった3月以降はOPECの増産が重要となるが、事実上の横ばい状況である。OPEC加盟国のリビアやナイジェリアは国内治安が悪く、供給体制も脆弱で生産は不安定だ。


結局、増産余力を持つのは、サウジアラビアの生産能力1150万バレル/5月生産量1043万バレル(以下同)、アラブ首長国連邦(UAE)が420万バレル/304万バレル等で、イランは余剰生産能力を有しているが、「核合意」の再編が挫折しており、「制裁解除=増産」を望むのは難しい。OPECで指導的な立場にあるサウジアラビアが積極増産に転じない限り、原油需給の緩和は困難と思われる。


第2には、欧米からの制裁やウクライナ戦争の影響で、ロシアの原油生産が減少していることだ。ロシアは3月以降の原油生産量を公表していないが、国際エネルギー機関(IEA)は、4月のロシア生産量が計画に対して134万バレルの未達と推定している。ここに、欧州連合(EU)のロシア産原油禁輸措置が加わるわけで、64.8万バレルの増産がタイトな原油需給を緩和させるシナリオは想定し難い。


こうした解釈から、WTI原油先物価格は6月6日に一時1バレル=120.9ドルまで上昇する局面があった。全米自動車協会発表の米レギュラー・ガソリン小売価格(全国平均)も、6月6日に1ガロン(3.785リットル)当たり4.919ドルと史上最高値を更新中である。代表的なコモディティ指数であるCRB商品指数も6月7日時点で327.1と2011年以来の高水準で推移している。


<米株は上値重い展開>


当然ながら、高インフレの継続が想定され、各国中銀の引き締め姿勢の緩和は困難と思われる。頑固にマイナス金利政策を維持して来た欧州中銀(ECB)も、ラガルド総裁がECBのブログで事実上の利上げ宣言を行い、イングランド銀行も昨年12月から利上げを繰り返している。


こうした状況から米10年国債利回りは反転し、6月6日には再び3%の大台を突破する局面があった。リバウンド傾向にあった米株式も反発力が減衰しつつある。FRBの強い引き締め姿勢、高騰が続く原油をはじめとしたコモディティ価格、尾を引くサプライチェーンの混乱、歴史的な高水準のCPI、急速に高まる景気減速リスク、そして終わりが見えず激化の様相を強めるウクライナ戦争──などを考えれば、米株式相場は今後も重苦しい展開が続くリスクが高いものと想定している。


ただし、相場は一方向のみに進むものではない。5月後半のように長期金利の低下から、一時的に晴れ間が広がることもある。問題は、その晴れ間(上昇)の持続性だ。夏の長く続く紺碧の空ではなく、梅雨前の短い晴れ間との認識が大切と思われる。


<健闘する日本株に世界景気減速の重荷>


一方、日本株の相対パフォーマンスは良好である。年初来騰落率の比較では、ダウ工業株30種平均がマイナス8.69%、S&P500種がマイナス12.70%、ナスダック総合がマイナス22.18%、独DAXがマイナス8.36%、仏CACがマイナス9.12%、伊MIBがマイナス10.90%に対して、日経平均はマイナス2.94%、TOPIXはマイナス2.27%と日本株の健闘が目立つ(6月7日時点・為替考慮なし)。


やはり、1)世界でも稀有になった日銀の超緩和策継続、2)7月参院選前の大型補正予算による景気刺激策、3)コロナ規制の緩和──などの政策面のサポートが効いているようだ。岸田文雄首相の支持率も就任半年を経過した後にしては異例の高さで、政治的安定度もプラスになっていると思われる。


昨年の自民党総裁選前後には、「金融所得税の増税」や「自社株買いの制限」を表明し、投資家の評価は厳しかった。しかし、今や「資産所得倍増計画」を打ち出している。岸田首相は、「聞く力」を標榜しているが、こうした変身に対して市場は好評価を与えているのだろう。


また、円安の進行も軽視できない。ドル/円は再び130円台に乗せてきたが、対ユーロでも140円を突破してきたことが大きい。電機、精密で年初来高値銘柄が多いが、特にカメラ、腕時計、複写機・OAといった典型的な円安関連株が堅調だ。


そろそろ、兜町に「日米株デカップリング論」(米株軟調・日本株堅調の継続)が流行しそうな気配である。しかし、日本株、特に日経平均は「世界景気連動指数」の性格が濃厚と思われる。世界景気が減速すれば、当然輸出株を中心に需要の下振れ圧力が強まることになる。円安の支援はあるが、その中で日経平均のみが独歩高する論理は、大きな矛盾を内包していると考えている。


当面、日本株のアウトパフォームは続きそうだが、一方で適宜の利益確定売りも忘れないようにしたい。



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